2070、2071、2072
2070、
「~の~」「~が~」
能因歌枕(廣本)(歌学大系)
國々の所々名
山城國。おとは山、等々(「の」「が」のないものは多い、以下の国も同じ)。あかの森、他15例、~の森。松之さき(「の」「が」不明)。なゝせの池。しめじの山。おとはの瀧。白河のたき。衣のたき。かうしの岡。鶯の谷。あらしの嶺。
~の森が異常に多い。~森、はない。
大和國。かづらきの山。高まの山。かねつの山。さるさはの池。すがたの池。かほの池。ますだの池。いはせの森。おとはの瀧。朝の原。
山城もそうだったが、池、瀧は、皆「の」がつく。大和は池が多い。
攝津國。けるみの浦。まのゝ浦。みかみのうら。さまのさき。いくたの森。はつかしの森。ふぢの森。いはせの森。ゆきの森。いはせの山。せびえの原。たまさかの池。ぬのびきの瀧。水のをか。
だいたい山城、大和と同じようなものだが、海があるせいか、「~の浦」が出た。ここまでのところ、万葉集で「の」が付いたのと同じような地形地名に「の」が付く。当然かも知れないが、「が」の付いたのはない。山は「の」のあるのもないのも出るが、それ以外で「の」のあるのを出したのには「の」の付かないのがない。
2071、
河内國。なぎさの浦。ないりその淵。しまつの池。さやまの池。むさしのゝ池。
伊賀國。かぶりの淵。
和泉國。なし。
伊勢國。ちひろの山。あしあひの濱。むら松の濱。ひなかの濱。
志摩國。かもの嶋。たまなみの嶋。
尾張國。おとぎゝの山。
參河國。衣での森。むらさきのえ。
遠江國。かひ野の池。
するがの國。たごのうら。富士の山。しのこのうら。もらしのいそ。
伊豆國。きぬがさき。きぬが池。
甲斐國。をひれの山。なみが崎。
相模國。たもとの浦。こゆるぎの礒。人みのうら。ゆるぎの浦。もろこしの原。
武藏國。あくしの池。つき人の浦。
安房國。けだちの原。きゆみの森。白雲のみね。なだちの浦。
かづさの國。かへのうら。そのかみの浦。たのはなの池。
しもつけの國。かとりのみね。
常陸國。霞のうら。あふせのうら。さくらの浦。
ちょっとまとめると、今まで畿内から東海あたりでは一度も出なかった「が」が、東国になると伊豆で二つ。しかも「~の池」としか言わなかったのが「~が池」となっている。そういえば鏡花の名作に「夜叉が池(越美境)」があった。甲斐とともに「~が崎」もある。その奧はまた普通になるが、今、「霞が浦」というのが「霞の浦」になっている。
近江國。心みのさき。とこのやま。うちでのはま。しがのうら。よごのうら。ひらのやま。
みのゝ國。いぶきのたけ。
しなのゝ國。あさまのたけ。こまがたけ。
かむつけの國。あらしの浦。はゝその山。あさがほの沼。いほのやま。
下野國。いほのぬま。
みちのくに。あひみの山。あへかのをか。しほがまの浦。なとりの峯。たつくらの濱。かみやどの嶋。おとりの池。とかげのさき。あそびのをか。からすきが崎。あひえのをか。をこのぬま。いにしへのかは。
ここで少しまとめると、信濃に「こまがたけ」があるのはさすがだ。関東東北になると「ぬま」が出る。「の」「が」に関係ないので出さなかったが、陸奥に「みゝやま」がある。万葉の「耳が嶺」に参考になるか。
出羽國。たちがさき。をがみのさき。いづれの岡。とりのうみ。月のやま。袖のうら。そらの浦。
わかさの國。秋のうら。あをのやま。しみづの浦。みかたの池。ちさの山。かたのゝ濱。
越前國。くづのうら。色のはま。色の山。
加賀國。はちすの浦。
能登國。にしきの嶋。おうが崎。たつのうら。たけのうら。
越中國。すゞめの嶋。うしのかは。いつはりの山。うたがひの山。たまほりの川。
越後國。はゝその山。
東日本ということでくくれば、ここでも、「が」は出羽、能登で出る。それにしても越中のはふざけているようだ。越後は大きな面積を誇るのに少ない。
2072、
丹波國。あきの山。
たむごの國。ふりのはま。紅のうら。
因幡國。うひの山。ふみの浦。
出雲國。りうのみね。
石見國。にしきのうら。やその森。
播磨國。ひさかたの浦。あまの原。ひゞきのなだ。ひろさはの池。(明石浦?)。
備前國。河ねのしま。かよふのうら。心みの浦。鶯のうら。
備中國。かゞみの嶽。くちなしの嶋。
ひごの國。みかどのもり。あしたの川。
あきのくに。まつのうら。雲のしま。
すはうの國。つゞみの瀧。かさ松の嶋。
ながとの國。むつるの嶋。
きのくに。なぐさの濱。吹上のはま。しらゝのはま。おもとの浦。わかのうら。おとなしの瀧。
あはぢの國。めざしの濱。とほぢの池。
さぬきの國。ねなしのはま。せみのはま。いづのうら。いとのはま。
いよの國。みてぐらの嶋。
とさの國。まとの池。ならしの山。わたの原。
阿波國。とこのうら。
ちくぜんの國。あらしの濱。
ちくごの國。なし。
ぶぜんの國。おもとの山。雲の山。やそのもり。すゞみのかた。かけたの森。
ぶごの國。なし。
肥前國。いがきの森。いつきの嶋。
肥後國。月見の嶽。
さつまの國。おもふの野。
日向國。つまのしま。
壹岐國。くれがたの礒。
つしまの國。すゞのうら。いまのやま。みその浦。まゆみの森。
まとめ。やはり西日本に「が」はない。ほかは同じようなものだが、瀬戸内海周辺はさすがに海に関する地形地名が多い。みな万葉集と同じで「~の浦」とか。東海道とかに比べて地名そのものが少ない。但馬、伯耆隠岐がない。飛騨もなかった。