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山田が地名の「が」で出したもの。いらこが島、わさみが原、ぬしまが崎、ふぢゐが原、の4つ。このうち「いらこが島」は、現在は「いらごの島」と読むことになっている。以前見たように、万葉集では、海、浦、崎、島など海洋関係のはほぼ皆「の」であって、「ぬしま(今は、のしま)が崎」は極めて珍しい例であった。こういう普通ではない例を出して論じるのは、説得力に欠ける。また「の」のつく地名の場合、上は、名称、存在の場所を示す、というのは分かるのだが、万葉集の場合、そういう地名では「の」の付かないのも多かった。この違いについて山田は何も言わない。「が」の場合、名称、存在の場所を意味するのではなく、上下で緊密な結合を示す一団の地名というのだが、そういうのは完成した固有名詞ととれるので、一見「の」の付かない地名と同じように思えるが、その違いについて山田は何も言わない。また、わずかに出した例にしても、わさみが原、ふぢゐが原(万葉集では、~が原は結構あった)などの場合、わさみ、ふぢゐ、は名称ではないのだろう。「わさみ」という名前の原ではなく、「わさみがはら」で一つの観念を与えているということだろう。もちろん、「わさみ」にある原でもない。とにかく、随分細かいように見えて、実際の万葉集の歌の解釈に役立つような説明はほとんどない。ちなみに、万葉23番24番の「いらごのしま」について(山田は23番のほうを「いらごがしま」と読む)、講義では、「の」「が」の違いについて、あるいは、~のしま、~がしま、というときの「の」「が」の意味について完全に無言である。