2055、2056、2057
万葉215号(2013年9月)、橋本雅之「古風土記の地名表記と和銅官名」
これは私の関心と一致するところが多く、参考になる。ただし、「の」「が」の違いや万葉地名には触れない。風土記和銅官命が材料だからやむを得ない。ともかく、行政地名と自然地名(私の言う地形地名)との表記の違いを、和銅官命の解釈をもとに説明していくという分かりやすい論理で、大変興味深い。
和銅官命の5条件、
①行政地名に好字を付けること
②③略
④山川原野の地名由来を報告すること
⑤古老相伝の出来事を報告すること
の①④について実際の風土記の地名を点検していく。播磨国風土記の例だと、揖保、行政地名、二字の音仮名表記、これは①。粒、行政地名、一字の訓字表記これも①。粒山、自然地名、一字の訓字表記(山を入れれば二字)、これは④。山川原野の地名表記は、意味喚起に重点がある、とする。揖保では由来が分からないが、粒のような訓字だと、飯粒に関する謂われのある山だと分かる。ということで、そうなると、特に二字とか好字とかにはこだわらない表記になるという(意図的な使い分け、ただし音仮名表記も多い)。たしかにその通りで、出雲風土記の地名を列挙したときも、赤島とか黒島とか粟島とかいう単純な地名が目だった。こういうのは万葉集の地形地名にも応用できないものか。
行政地名は、二字で読み間違いの無いような訓字を使用するのが多い。音仮名使用表記は語形明示を志向する。どちらも、好字、つまり誤読を防ぐ表記を志向している。④は二字にこだわらず、意味喚起的な表記によって、自然地名の「所由」を志向している。それは地名起源説話をもたない地名にも適用される。
以上三日にわたって橋本論文を読んでみた。さすがに3回目に読むと、ちょっと荒っぽい感じがしてくる。結論に当てはまらない例も多いのではないかということ。一見面白そうだが、全面的に支持できるほどではない。もちろん私などには出来ないことで、だから論文として採用されているのだが。