2314、そがひ15

2314、そがひ15
次に紹介するのは前回に予告した論文ではなく、藤田氏が引用されたもので、幸いにネットにあったものである。             
中村宗彦「「越中立山縁起」・「そがひに見ゆる」考」『天理大学学報』160 天理大学学術研究会、1989年
https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/repository/metadata/1730/GKH016014.pdf
二つの論考を結んだような中途半端なもので、時間をかけて書いたとは思えない。通説の方は無視して、「はるか彼方」説やそれに近いものを三説点検するし、12例について、山崎氏や池上氏に従い「はるか彼方」説が適当だとする。また小野氏以上に「そがひ」を、後方とか横とか解するのは間違いだと強く否定する。その点は全く私と同じで、少数派とはいいながら、同じ主張をする方がここにも居られるのは心強い。しかし、小野氏以上に厳しく批判されるものの、常識としてそんな意味には解釈できないというだけで、結局小野氏と同じ主観論になっている。そして、語義というのは、辞書的な意味よりも、まともに作品が解釈できるだけの意味の妥当性が大事であって、「そがひ」も初めは、後ろ向きとか背きあうとかいう意味だったのが、意味が変遷して、「はるか彼方に」という意味になったのだとするが、仕方がないとはいうものの、通説に従う人達を説得するだけの力がない。
なお具体例として検討された、立山の「そがひ」については、伏木の国府からみてはるか彼方の立山だとされるが、此が成り立たないのはすでに見た。「朝日射し」の詳しい地理的な点検もなく、魚津説も引用しながら、国府から短時間で往復するのは説得力に欠けるとしてあっさり切り捨てられたのは残念である。自信ありげに論述されているものの、あまり参考にならないものであった。

次のようなのがネットにあった。

そがひ追考、垣見修司、高岡市万葉歴史館紀要、22号、2012年3月
万葉集に見える「そがひ」の語はその用字「背」や「背向」を、背後やそむくという意味を表すとみて、後方、斜め後ろに理解する説が行われてきた。たしかに、巻四・五〇九などの例に限って言えば、背後・後方説はいかにもふさわしい。しかし、じつのところ、背後・後方説では、何らかの条件を加味して考えなければ処理できない用例のほうが多い。そのため、斜め後ろといった見方も生じた。しかし、訓詁を探れば「背」は、離れていることをも意味する。漢字「背」はそうした意味によって「そがひ」の語に宛てられたのである。したがって「そがひ」は遠く離れたところ、はるか彼方の意を表すとみるべきである。

巻四・五〇九は丹比笠麻呂の粟島を詠んだ長歌。これはどう見ても背後とか後方の意味にはならないのだが、どう説明しているのだろうか。それはとにかく、「そがひ」の語義を、「背」の訓詁から探ろうとしたのは、吉井説以来のもので、興味があり、また結論も私が説明してきたものと同じだが、要はそれで各用例の地理的な説明が出来るかと言うことだ。是非読んでみたいものだが、こういう紀要類はまず読めないのであきらめるしかない。