1965、
ちょっと脱線。偶然眼にした歌。
しまみやのみかりの池のはなちとりひとめきらひて人におよはす(歌仙家集・柿本集)
万葉集では、「~宮」というとき、すべて「~の宮」というのに、ここでは「しまみや(島宮)」となっている。題詞では「なみの宮のうせたるとき」とあって、万葉の「ひなみしのみこ」が「なみの宮」となってはいるが「の」はついている。前後を見ると、「よしの山にみゆきする時の」という題詞で「みれとあかぬ吉野の山のとこなめにたゆる時なくまたかへりみむ」というのがある。題詞は「よしのやま」だが、歌では「吉野の山」となっている。全部見たわけではないが、「しまみや」などという万葉ではありえない読みが後世には出てくると言うこと。題詞なら「よしのやま」もありうるということなどがわかる。
もとにもどる。
山はさすがに「~の~」「~」の両形あるものが多い(ないのも多いが)。
倉橋乃山(2:1)、三輪乃山(1:3)、始瀬乃山(3:2)、振乃山(1:3)、奈良能山(3:11)、佐保能山(1:4)、春日之山(4:9)、御笠乃山(10:3)、高圓乃山(1:3)、裁田之山(2:8)、いこま乃山(1:4)
鹿脊之山(2:2)、妹之山(2:1)、築羽乃山(4:1)、ふたがみのやま(1:7)
このように、大和のが11例、あと、山城、紀伊常陸が各一例で、圧倒的に大和が多い。これら以外のに「~」がないのとは大きな違いである。しかもだいたい、「~の~」より、「~」のほうが多い。奈良の山、春日の山、立田の山などは目立つ。ただし三笠の山のように10:3という極端に逆のもある。なぜか「三笠山(みかさやま)」とは言いにくかったようだ。とにかく、大和でも特に有名でなじまれたものに「~」という漢語的なのが多い。しかも平城遷都後に目立つようだ。大和以外でも、山城などは平城京とほぼ同じ条件だし、紀伊のは行幸であまりに有名だし、常陸筑波山も、平城遷都後によく詠まれるようになった。ただしこれらは、「~」より「~の~」のほうが多いのが目立つ(例が少ないからあまり有効ではないが)。そんな中で、越中の「二上山」が、平城京あたりの山と遜色のない「~」を示すのは目を引く。やはり家持などの平城京時代の作者のせいではないだろうか。何度も歌に詠む山の名前を漢語風の固有名詞にしていったというふうに。