2244

2244、
長歌の冒頭が、5757…とならず、5657…となるもの。
38、安見知之 吾大王(わがおほきみ)… 柿本人麻呂
45、八隅知之 吾大王(わがおほきみ) 高照 日之皇子(ひのみこ)… 柿本人麻呂
50、八隅知之 吾大王(わがおほきみ) 高照 日乃皇子(ひのみこ)…
52、八隅知之 和期大王(わごおほきみ) 高照 日之皇子(ひのみこ)…
199、挂文 忌之伎鴨(ゆゆしきかも)… 柿本人麻呂
207、天飛也 軽路者(かるのみちは)… 柿本人麻呂
217、秋山 下部留妹(したへるいも)… 柿本人麻呂
239、八隅知之 吾大王(わがおほきみ) 高光 吾日乃皇子乃(わがひのみこの)… 柿本人麻呂
261、八隅知之 吾大王(わがおほきみ) 高輝 日之皇子(ひのみこ)… 柿本人麻呂
420、名湯竹乃 十縁皇子(とをよるみこ)… 丹生王 
892、風雜 雨布流欲乃(あめふるよの) 雨雜 雪布流欲波(ゆきふるよは)… 山上憶良
3234、八隅知之 和期大皇(わごおほきみ) 高照 日之皇子之(ひのみこの) 聞食 御食都國(みけつくに) 神風之 伊勢乃國者(いせのくには)…以下も不定
3236、空見津 倭國(やまとのくに)…以下も不定
3245、天橋文 長雲鴨(ながくもがも) 5657577
3278、赤駒 厩立(うまやにたて) 5657575757577
(3314、次嶺経 山背道乎(やましろぢを)…)
3331、隠来之 長谷之山(はつせのやま)…
4164、知智乃實乃 父能美許等(ちちのみこと) 56… 家持
(4245、虚見都 山跡乃國(やまとのくに)… 
こうしてみると、57とならず56となるものは18例あって、かなりの用例数といえる。ほかにも、46といったのもあるが数えなかった。こういう字足らずの不定型の長歌は、記紀歌謡などの万葉より一時代前の口誦歌謡の名残で、文字表記を通して読む長歌になった万葉集では消滅していくとされている(工藤隆『日本・神話と歌の国家』勉誠出版2003年12月では、中国少数民族の歌垣の例などから、口誦の歌謡にも定型はあると言っているが、十分には論じられていない)。
確かに万葉でも古いものに多い。
柿本人麻呂、7例
丹生王、1例
山上憶良、1例
大伴家持、1例
作者不明、8例
で、圧倒的に人麻呂が多く、赤人、虫麻呂、金村などの長歌にはない。作者不明といっても、人麻呂と同時代のものや、巻13のものがすべてである。憶良、家持のような万葉後期のものは珍しいが、憶良の場合、風雜 雨布流欲乃 雨雜 雪布流欲波…で、5656で記紀歌謡的な疊語にちかく、家持も、知智乃實乃 父能美許等 波播蘇葉乃 母能美己等…で、5656となり、憶良と同じである。さらに、これは、人麻呂の、八隅知之 吾大王 高照 日之皇子…の、5654、八隅知之 吾大王 高光 吾日乃皇子乃…の、5657、などとよく似た、呼びかけによる畳みかけにも近く、そういう古い長歌を真似たものと言える。憶良は記紀歌謡の影響があると言われる。そうすると、25 み吉野《よしの》の 耳我《みみが》の峰《みね》に 時《とき》なくそ 雪《ゆき》は降《ふ》りける…は、5757だが、耳我嶺爾を「耳が嶺に」と読んで、5657とするのは十分可能性がある。それに以前言ったように「我」を格助詞の「が」にすることは万葉前期には複数個の例がある。また「みみが」といった、全く意味不明の山岳名よりは、「みみ(耳)」という名の方が、イメージが湧きやすく、「耳」を名に持つ有名な山岳もあちこちにある(中国の熊耳山、韓国の馬耳山はよく知られている)。なお、25番歌のばあい、名詞による呼びかけではなく、「耳が嶺に」という、場所を示す格助詞「に」になっている。これにしても、「に」の例はないが、
207、天飛也 軽路者(かるのみちは)
892、風雜 雨布流欲乃(あめふるよの)
3314、次嶺経 山背道乎(やましろぢを)
など、呼びかけでなく、助詞になっているものがある。3314などはよく似ている。ただし「次嶺経」は「つぎねふ」だから、46で、56でないのが少し合わないが。207にしてもリズムとしては似ている。
あまとぶや、みよしのの 枕詞に対して、枕詞的な美称つきの地名
かる/の/みち/は、みみ/が/みね/に 品詞の構成が同じ