2138~2141

2138、
次は、飛火賀※[山+鬼](たけ)(1047)。体調不良につき何もせず。
2139、※[山+鬼]の字の読み方や位置比定について、いろいろ説があったがだいたい落ち着いてきたようだ。吉井全注を見てみよう。
訳、…生駒山の飛火が岳(たけ)に…。飛火が岳は、攷証が指摘するように、続紀和銅五年正月条に「…。」とある河内国高見烽の置かれた山をさし、高見山を「河内国名所図会」「五畿内志」は峠村(今の暗峠)の北の山とする。
これだけ。地理の好きな吉井氏にしては拍子抜けがするほど簡単だ。もとの高安山よりは奈良に近く高度もあるが、生駒山の最高所に比べると見劣りがする。維持管理の便利さも考慮されたのだろう。それに暗峠は多くの人が行き来するだけに、その位置が見やすく、夜でもはっきりそこと指定できたのだろう。ところで、言うまでもないことかも知れないが、なぜ「が」なのかについては一言の言及もない。
2140、
全注があっけなかったので、追加。
北島葭江、萬葉集大和地誌、「飛火が岡」は、奈良の三笠山だと力説。どうも作品を誤解しているようだ。
阿蘇全歌講義、書き下しでは、「飛火が岳(たけ)」だが、訳では「飛火が岡」。語注では「飛火が岳」だがふりがな無し。地理説明は極めて簡単。
新大系、訳、…生駒山や飛火が岡に萩の枝を…
新全集、訳、…生駒山や 飛火が岡に 萩の枝を…
新大系、新全集のような地理理解はあり得ないだろう。阿蘇の言うように、生駒山の一峰が「飛火が岳」であって、生駒山と別に「飛火が岡」といったような地形があるわけではない。それに「たけ」ではなく「をか」としている。
物足りないので、もう少し。
釋注、訳、…生駒山の飛火が岳で、萩の枝を…。飛火が岳 生駒山の一峰。蜂火台が置かれたのでこう呼んだもの。
釋注が一番分かりやすいが、それでも具体的な比定地を書かず、説明も簡単。
2141、
暗峠455m、高安山488m、生駒山642m、藤原京むけの最初の高安山より低く、生駒山より遥かに低いが、奈良からは、暗峠の北方のちょっと高く尖ったのがよく見えて、目立つ。そこに「のろし台」があったのだろう。正式には「高見烽(たかみとぶひ)」といったらしいのを、作者は「飛火が岳」と分かりやすく言い換えている。やはり「のろし台」よりも、暗峠一帯の、萩が咲き、鹿が来る山に焦点がある。それにしても、生駒山といえば、大きな山地の名前になるが、その中の「飛火が岳」といえば、極めて限定された狭い地名になり、しかもその属性そのものの「飛火」が「岳」というのだから、「が」の付く地名にぴったりであり、一部の大宮人や歌人達にだけ通じる地名として作ったのかも知れない。いかにも福麻呂らしい細かい描写である。