2078~2086

2078、歌學提要、内山眞弓(歌学大系第8巻)。名所。別に決まったところがあるのではない。ところの有様をよく知って読むべきである。桂園派の説を纏めたらしい。
2079、五代集歌枕、藤原範兼(歌学大系別巻1)
山。をぐらやま山城、…。非常に多い。8割方「の」がない。ただしそれの例歌の中に「の」のあるのが混じっている。「かすが山」の例歌に「かすがの山」があるように。
嶺。嶺をネと読み、峯をヲと読む。峯。おほしまみね。あをねがみね。いこまたかね。たかまとのみね。…。…しらね。…たかね。さがみね。つくばね。…。
岳。かめのをか。ふなをか。…。ほぼすべて「~のをか」。
隈。…。
杣。…。
林。…。
坂。…。
野。非常に多い。9割方「の」がない。
澤。…。
田。…。
原。半々。
牧。…。
窟。…。
杜。「~のもり」だけ。
社。…。
寺。…。
海。「~のうみ」ばかりだが、「ありそのうみ」の例歌は「ありそうみ」が大方。
江。おおかた「の」なし。
浦。非常に多い。「~のうら」ばかり。
2080、河。非常に多い。9割方「の」がない。
河原。ある方が多い。
瀬。…。
淵。…。
瀧。きよたき、以外は「の」あり。
池。全部ある。
沼。だいたいある。かほやがぬま。珍しい「が」。
嶋。だいたい半々。
濱。9割方「の」がある。
潟。全部ない。
崎。おおかた「の」がある。
礒。おおかた「の」がある。
岸。…。
津。おおかた「の」なし。
淀。…。湊。…。泊。…。渡。…。井。…。温泉。…。水。…。石。…。郡。…。里。…。村。…。都。…。宮。…。關。…。市。…。道。…。橋。…。
2081、万物部類倭歌抄、藤原定家(歌学大系別巻3)
万葉集
雲、名山、みわ山をしかも…
山、白妙の衣乾有あまのかぐ山
名山、あさもよひ…まつち山
名山、鳥、よぶこどりきさの中山
名山、風、みよしのゝ山した風
同、うじま山あさかぜさむし
名山、おきつしらなみたつた山
同、いはみのやたかつの山…
同、みよしのゝみふねの山
山、あまくだる神のかご山  (山の時は、普通名詞なのだが、ここは例外か、以下時々出るので拾った)
名山、河、まつち山 いほさきのすみだがはら
同、とよくにのかゞみの山
浦、名山、たごのうら …ふじのたかね
名山、みつもろの神なび山 …
同、みよしのゝたか木の山
同、しほつ山
同、つるがのはま (???誤記か)
同、たかくらのみかさの山
2082、名山、女、かくれぬの|はつせをとめ《はつせやま》…
名山、河、あふみぢのとこのやまなる…
山、女、をとめらがそでふる山の…
名山、きのくにのいもせの山
同、しらとりのとばやまゝつ
名山、崎、みこしやまいほへかくせる…
同、わかさぢのゝちせの山
同、のちせ山のちもあはむと…
同、まつらがたさよひめのこがひれふりし
同、たきのうへのみふねの山
同、ゆふたゞみたむけの山
同、をとめらがうみをかくといふかせの山
山、こま山になくほとゝぎす
河、山、あなしがは まきもくのゆづきのたけ
名山、まきむくのひばらの山
山、おほきみのみかさの山
名山、みわのひばらにかざしをりけむ
山、苔、あをねがみねのこけむしろ
山、みよしのゝみづわけ山
野、山、しながどり…ありま山
山、あしがらのはこねとびこえ
名山、あじろすぎいとかの山の…
同、なぐさ山…
山、苔、あたへゆくをすての山…
山、おほは山…
山名、むばたまのくろかみ山
同、をとめらがはなちのかみをゆふの山
山、椿、あなし山椿さけれや
山名、獣、みくに山こずゑに…
同、しらとりのさぎさかやま
山、湖、さゝなみのひら山風の…
山、嶺、しらくものたつたの山の…をぐらのみね
山霞、あさづま山にかすみたなびく
山名、かすがなるはがひ山より
名山、つまかくすやのゝ神山…
山名、いもがそで巻きの山
河、山、あすか河もみぢばながるかづら木の
山、草、あふさか山のしのすゝき
野、草山、やたのゝのあさぢいろづくあらち山…
山雪、あまをぶねはつせの山に…
山名、隠妻、はつせのやゆづきがしたに…
同、ひもかゞみのとかの山
山名、馬、山しなのこはたの山に…
山名、あをやぎのかづら木山に…
山名、草、うばたまのくろかみ山に
山、草、みむろの山のいはほすげ
2083、山名、くたみ山ゆふゐるくも
熊、山名、あらぐま…しはせ山   海名、河名、野名、原名、杜名、江名、池名、という項目もある。
山名、本人、まつち山もとつ人
山名、雲、いこまやまくもなかくしそ
山名、いため山ゆきかふ道のあさがすみ
山名、葛、ゆふだゝみたながみ山のさなかづら
山名、玉鬘、丹波ぢのおほえの山のたまかづら
山名、葛、ゆふだゝみしらつき山のさなかづら
山名、鳥、恋衣きなれの山になくとりの
2084、山名、雲、まきもくのあなしの山に…
山名、よそにのみ…たむけの山を…
山、駒、いでわがこま…まつち山
山名、こひじとすれどゆふま山
々、たまかつましまくま山の…
山名、浜、いは木山…こぬみのはま
山雲、かすがなるみかさの山…
々、みゆきふるよしのゝたけに…
駿河、富士山、あまのはらふじのしば山
々、かすみゐるふじの山辺
々、こふらくはふじのたかねの…
相模、山名、あしがらのはこねの山
山、草、あしがりのはこねのねろ…
常陸、山、ソガヒ、つくばねに…あしほ山
上野、山、ひのくれにうすひの山…
山、いかほろの…
山名、下野のみかもの山
山、相模、あしがりのあきなの山
山、ゆふま山
山名、いはねふむいこまの山
山、鹿、かやの山べに…
山、あさかやまかげさへみゆる
山名、鳥、たかくしげふたかみ山に…
山、立山
々、すがの山
山名、となみ山
古今集
梅、山名、にほふはるべはくらぶ山…
花、山霞、みわ山をしかもかくすか…
紅葉、山名、…いたくもる山は…
雪、山、衣手…よしのゝ山に…
雪山、ふるさとはよしのゝ山…
山、礒、しほの山…
山、滝、かめのをのやまの…
山名、ちちわかれいなばの山…
山、ツヽジ、…時はの山の…
富士山、おもひをつねにするがなる
山桜、わがこひにくらぶの山の…
山名、さやのなか山…
々、みわの山いかにまちみむ…
以下、古今集巻17以降、後撰集拾遺集、後拾遺抄、は標題無しの和歌の抜粋だけ。古今名所、源氏名所、があるが、とくに採るべきものもない。なお古今集の標題に「山」は結構あったが、普通名詞なので出さなかった。

2085、
八雲御抄、順徳天皇(歌学大系別巻3)
歌会の可v憚名所、さがらか山、神をか山、いくら山、しほひの山、たまのを山、とりべ山、しでの山
第五 名所部 山から寺まで五十項目有り、395~426頁にわたる。国名の次に名所を出し、それに簡単な注を付けている。気づいた点などを略記する。
山。「の」は付けたり付けなかったり。かせの、さほの、みかさの、とか、さぎさか、たつた、はがい、とか。みゝがの(吉野也。)万葉から、千載集まで出しているが「が」の付くのはない。
嶺。あをねが。
嵩。いこまのたけ。よしのゝたけ。ゆづきが。あさまの。
根。いこまたかね。など。
岳。佐田の岡。など。
原。うきしまが(ふじのすそ也。)みやぎが(陸奥)、しめじが(下総)
2086、野。量は多いが特になし。
杜。池。河原。滝。淵。瀬。渓。淀。特になし。
沼。かほやが東国上野也。
河。嶋。量は多いが特になし。
崎。野じまが。みをが。いらごが。ゑじまが。きよみが。まつが。
潟。浜。浦。海。江。量は多いが特になし。

以上、ずいぶんたくさん見たが、そう変わりはない。「が」の付くものには付いているが、崎に多く付いていたのが目を引く。だいたい万葉集からそうだったが、やはり東日本に「が」の付くのが多い。名所といっても、橋、関、里、宮など人工物が多い。そういうのは略した。